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大阪地方裁判所 昭和54年(ワ)1913号 判決

第一九一三号事件原告・第三九九二号及び第六七六号参加事件被告 豊国通商株式会社

右代表者代表取締役 上田昌利

第一九一三号事件被告・第三九九二号及び第六七六号参加事件被告 株式会社下村

右代表取締役 下村正治

第三九九二号参加事件原告 有吉寅蔵

第六七六号参加事件原告 米田義信

主文

一  原告および被告と参加人有吉との間において、参加人有吉が別紙物件目録記載の土地について所有権を有することを確認する。

二  参加人米田と原告との間で、原告を買主、訴外株式会社潮を売主とする別紙物件目録記載の土地についての昭和五三年四月一日付売買契約にもとづく法律関係が存在しないことを確認する。

三  参加人米田と被告との間で、被告が別紙物件目録記載の土地について所有権を有しないことを確認する。

四  原告の請求を棄却する。

五  参加人有吉のその余の請求を棄却する。

六  訴訟費用中参加人米田につき生じた分を除くその余の訴訟費用は、これを一〇分し、その五を原告、その三を被告、その余を参加人有吉の負担とし、訴訟費用中参加人米田につき生じた分はこれを二分し、その一を原告の、その一を被告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  本訴

1  請求の趣旨

(一) 被告は、原告に対し、別紙物件目録記載の土地(以下「本件土地」という。)について、昭和五三年四月一日付売買を原因とする所有権移転登記手続をせよ。

(二) 訴訟費用は、被告の負担とする。

2  請求の趣旨に対する被告の答弁

(一) 主文第四項と同旨。

(二) 訴訟費用は、原告の負担とする。

二  有吉参加事件

1  参加人有吉の請求の趣旨

(一) 主文第一項と同旨

(二) 被告は、参加人有吉に対し、本件土地について昭和四九年一月一〇日付権利譲渡を原因とする所有権移転登記手続をせよ。

(三) 有吉参加事件の参加訴訟費用は、原告および被告の負担とする。

2  参加人有吉の請求の趣旨に対する原告および被告の答弁

(一) 参加人有吉の請求はいずれも棄却する。

(二) 有吉参加事件の参加訴訟費用は、参加人有吉の負担とする。

三  米田参加事件

1  参加人米田の請求の趣旨

(一) 主文第二、第三項と同旨

(二) 米田参加事件の参加訴訟費用は、原告および被告の負担とする。

2  参加人米田の請求の趣旨に対する原告および被告の答弁

(一) 参加人米田の請求を棄却する。

(二) 米田参加事件の参加訴訟費用は、参加人米田の負担とする。

第二原告の請求についての当事者の主張

一  原告の請求原因

1  訴外株式会社潮(以下「訴外会社」という。)は、昭和四七年一二月八日被告からその所有にかかる本件土地を一五〇〇万円で買受け、同月三〇日その代金を支払つた。

2  しかし、登記簿上本件土地は依然として被告の所有名義になつているところ、訴外会社と被告とは、訴外会社が本件土地を第三者に売却したときには、被告から直接右第三者に対して所有権移転登記をなす旨合意した。

3  原告は昭和五三年四月一月訴外会社から本件土地を五〇〇〇万円で買い受け、同日右代金を支払つた。

4  よつて、原告は、被告に対して、右昭和五三年四月一日付売買および前記中間省略登記の合意にもとづき、本件土地について昭和五三年四月一日付売買を原因とする所有権移転登記手続をすることを求める。

二  原告の請求原因に対する被告の認否および主張ならびに参加人有吉、同米田の認否  1 被告および参加人米田

本訴請求原因1の事実および同2の事実のうち被告が本件土地について登記名義を有することは認め、同2のその余の事実および同3の事実を否認し、同4を争う。

被告と訴外会社との間の合意は、本件土地とこれに隣接する被告所有の六筆の土地とを一括してでなければ第三者に売却してはならず、一括して売却したときに限り、被告は右第三者に対して直接所有権移転登記手続をなすことに同意するというものであつた。

2 参加人有吉

本訴請求原因1、2の事実を認め、同3の事実を否認し、同4を争う。

第三参加人有吉の請求についての当事者の主張

一  参加人有吉の請求原因

1  本訴の請求原因1(訴外会社が被告から本件土地を買い受けたこと)、同2(中間省略登記の合意)と同旨

2  参加人有吉は、昭和四九年一月一〇日訴外会社に対して、一三〇〇万円を弁済期昭和五〇年三月一五日の約定で貸し渡し、同日右債権の担保として訴外会社から本件土地を譲り受けたが、訴外会社が右債務を弁済しなかつたので、右弁済期の経過により確定的に右土地の所有権を取得した。

3  よつて、参加人有吉は、原告および被告に対しては、本件土地所有権にもとづいて、参加人有吉が同土地について所有権を有することの確認を、被告に対しては、譲渡担保および中間省略登記の合意にもとづき、本件土地について昭和四九年一月一〇日付権利譲渡を原因とする所有権移転登記手続を求める。

二  参加人有吉の請求原因に対する原告、被告の認否および被告の主張

1  原告

参加人有吉の請求原因1の事実は認め、同2の事実は知らない。同3は争う。

2  被告

参加人有吉の請求原因1の事実のうち、中間省略登記の合意については否認し、その余は認め、同2の事実は知らない。同3は争う。被告は、訴外会社に対して、訴外会社が本件土地を隣接する被告所有の土地と切り離して処分したときにまで、直接第三者に対して所有権移転登記をなすことを約していない。被告と訴外会社は、本件土地とこれに隣接する六筆の被告所有土地とを一括してでなければ第三者に売却しないことを約し、被告は一括して売却したときに限り右第三者に対して中間省略登記をなすことに同意したのである。

三  原告の抗弁

原告は、昭和五三年四月一日訴外会社から、本件土地を五〇〇〇万円で買い受け、同日右代金を支払つて本件土地所有権を取得するに至つたのであつて、仮に参加人有吉の主張するような本件土地の譲受があつたとしても、原告は参加人有吉の右物権変動に関する登記の欠缺を主張するについて正当利益を有する第三者にあたるから、未だ登記を具えていない参加人有吉は本件土地所有権の取得をもつて原告に対抗できない。

四  原告の抗弁に対する参加人有吉および被告の認否

原告が本件土地を訴外会社より買い受けたとの事実を否認する。

第四参加人米田の請求についての当事者の主張

一  参加人米田の請求原因

1  本件土地は登記簿上被告の所有名義になつているが、訴外会社の所有に属する。

2  訴外会社は、昭和四九年九月二五日被告に対して、本件土地を被告所有の六筆の土地と一括して売却することを委任し、その代金を被告七、訴外会社五の割合で分配する旨約した。

3  参加人米田は、昭和四九年一〇月一〇日、訴外会社に対して、三五〇〇万円を貸し渡し、昭和五〇年一二月一六日右債権の担保として、土地一括売却代金の一二分の五の分配を受ける前記権利を譲り受けた。その後右権利譲渡につき訴外会社から被告に対して通知がなされ、また被告は右権利譲渡を承諾した。

4  原告は、本訴請求事件において、昭和五三年四月一日に訴外会社から本件土地を買い受けたと主張して、被告に対し、本件土地について所有権移転登記手続を請求している。

しかし、右売買は実体を伴わない架空のものである可能性が濃厚であり、したがつてまた、本訴請求事件は詐害訴訟の蓋然性が強く、かくては本訴請求事件の結果により参加人米田の前示権利は侵害することになるので、参加人米田は、民事訴訟法七一条前段により本訴請求事件に参加した。

5  よつて、参加人米田は、原告に対しては、原告を買主、訴外会社を売主とする本件土地についての昭和五三年四月一日付売買契約にもとづく法律関係が存在しないことの確認を求め、被告に対しては、被告と右参加人との間で、被告が本件土地について所有権を有しないことの確認を求める。

二  参加人米田の請求原因に対する原告および被告の認否

参加人米田の請求原因1のうち、本件土地が登記簿上被告名義であること、かつて訴外会社が本件土地を所有していたことは認めるが、本件土地の現在の所有については争う。同2の事実は認める。同3の事実は知らない。同4のうち本訴請求事件の係属の事実は認めるが、その余は争う。同5は争う。

三  原告の抗弁

原告は、昭和五三年四月一日本件土地をその所有者である訴外会社から、五〇〇〇万円で買い受け、同日右代金を支払つた。

四  原告の抗弁に対する被告および参加人米田の認否

否認する。

第五証拠〈省略〉

理由

第一参加人米田の当事者参加の適法性について

参加人米田は、「本訴の結果によりて権利を害せらるべきことを主張する第三者」として民訴法七一条前段による当事者参加を申立てたものであるが、右の参加は、立法の沿革に照らすと、馴合訴訟、詐害訴訟の防止を目的とする制度であるとみるのが相当である。したがって、当事者が主観的に第三者を詐害する意思を有していて詐害訴訟であると認められる場合にこれを防止するための右の参加が許されるべきはいうまでもないが、当事者が必ずしも主観的な意味における詐害意思を有すると認められなくても、請求の趣旨、原因、これに対する答弁、当事者の関係等から客観的にみて詐害訴訟であるおそれがあると認められる場合にもまた、詐害訴訟を防止するため右の参加をすることが許されるべきものと解すべきである。けだし、客観的にみて詐害訴訟であるおそれがあると認められる以上、これにより事実上権利を害されるおそれのある第三者が右の訴訟に参加して当該詐害訴訟を防止しようとするのは自然であつて、そのような訴権は保護に価するが、これを認めても格別手続を複雑にしたり、不安定にすることはないのであり、むしろ、右の参加を契機として、第三者の立場からも公正とみられ、かつ、実体に適合する判決がえられることは望ましいことであるから、このような場合にまでなお結果としては当事者に詐害意思があると認められなかつた(なお、参加訴訟の係属そのものが当事者の詐害意思の顕現を防止することもありうるのである。)として参加を許容しないとするのは相当でないからである。

本件についてみるに、本訴における原告の主張は、(1) 訴外会社は被告からその所有にかかる本件土地を買受けてその代金を支払つたが、登記簿上の所有名義は被告名義のまま残されていたところ、(2) 原告は訴外会社から本件土地を買受けた、(3) なお、中間省略登記の合意もあるから、被告に対し、本件土地の所有権移転登記手続を求める、というのである。これに対し、被告は、右(1) の主張事実を認めているから、被告は本件土地について登記名義を有することにつき実質的な利害を有しないものと観察せざるをえず、かくては、本訴の所有権移転登記請求について、被告が真剣に訴訟を追行しない可能性があるということができる。もつとも、被告は、右(2) 、(3) の主張事実についてはこれを争う態度に出ているが、右の主張関係から明らかなように、本訴の帰趨を定めるうえでは訴外会社が重要な鍵をにぎつているということができるが、証人中井規子(第一、第二回)の証言によると、訴外会社は不動産会社であるがすでに事実上倒産状態におちいつていてその営業を休止していることが認められるから、よしんば利害関係を有する事項があつてもその処理に関心を示さない等の可能性があるといえるのであつて、かくては、本訴が原告の主張のとおりに推移する可能性がないわけではない。そして、証人芝田勇の証言、参加人米田本人尋問の結果、右証言および尋問の結果により真正に成立したものと認められる丁第二号証、参加人米田と原、被告との間で成立に争いのない丁第一号証を総合すれば、参加人米田は、訴外会社に対し昭和四七年から数度にわたり金員を貸し付け、昭和五〇年一二月一六日、それらのうち三五〇〇万円につき準消費貸借を締結したこと、同日、右債権の担保として訴外会社が被告に対して有する土地一括売却代金の一二分の五の分配を受ける権利を訴外会社から譲り受けたこと、訴外会社は、昭和五一年三月ごろ右の権利譲渡を被告に通知したこと、が認められ、かりに原告の請求が認められれば、訴外会社の責任財産が減少するばかりか、参加人米田が譲り受けた被告から代金の分配を受ける権利を行使することも事実上困難になるのであるから、参加人米田は本訴の帰趨に重大な利害を有するといえる。

したがつて、参加人米田の参加は適法というべきである。

第二原告の請求について

一  訴外会社が、昭和四七年一二月八日被告からその所有にかかる本件土地を買い受けたこと、本件土地が登記簿上依然として被告所有名義になつていることは、いずれも原、被告、参加人有吉間および原、被告、参加人米田間でそれぞれ争いがない。

二  原告は、昭和五三年四月一日訴外会社から本件土地を五〇〇〇万円で買い受けたと主張するので、この点について検討するに、この主張に見合う「譲渡證書」と題する書面(甲第一号証の一)があり、証人中井規子(第一回)および原告代表者はこれに沿う供述をするが、証人中井規子(第二回)はのちに右供述を翻し昭和五三年四月一日付の訴外会社と原告の売買契約は存在せず、甲第一号証の一が作成されたのは、訴外会社の代表者であつた中井栄三郎が死亡したのちである昭和五三年一〇月ごろで、右書証の中井栄三郎の二箇所の署名(「譲渡人」欄および「立会人」欄)は中井規子によりなされた旨供述するに至つている。そこで案ずるに、その方式および趣旨により真正に成立したと認められる甲第一号証の一のうちの官署作成部分、全当事者間で官署作成部分は成立に争いがなく、その余の部分は原告代表者尋問の結果により真正に成立したと認められる甲第二号証の一、右尋問の結果により真正に成位したと認められる甲第三号証の一、証人中井(第二回)の証言、原告代表者尋問の結果を総合すれば、甲第一号証の一には作成日付として「昭和五参年四月壱日」の記載があるが、公証人によつて付された確定日付は昭和五三年一一月二日であること、原告が被告に対して訴外会社から本件土地を買い受けたことを通知したのは、昭和五三年一一月四日(通知書を差し出したのは同月二日)になつてからであつて(二度目は同年一二月二七日)、それ以前には、被告に対して、本件土地を取得したことを通知したり、所有権移転登記手続を求めたりすることがなかつたことが認められる。また、証人中井規子(第一、第二回)の証言、原告代表者尋問の結果によると、甲第一号証の一中の「中井規子」名義の署名は中井規子がしたものと認められるところ、同号証中の二つの「中井栄三郎」名義の署名と右「中井規子」名義の署名を対比すると、とくにそのうちの「中井」との筆跡は相互に非常に似通つていることが認められるのであつて、該事実および証人中井規子(第二回)の証言によると、右の二つの「中井栄三郎」名義の署名もまた中井規子がなしたと認めるのが相当である。

右認定の甲第一号証の一の確定日付および原告が被告に対して本件土地について所有権移転登記を求めるべく活動を開始した時期、甲第一号証の一の署名者などの点を考え合わせれば、前記証人中井規子(第二回)の証言のとおり、甲第一号証の一は中井栄三郎の死後(証人中井規子((第一回))の証言により昭和五三年八月二九日死亡と認められる。)である昭和五三年一〇月ごろに作成されたものと認めるのが相当である。

ところで、原告代表者は、原告が昭和五三年四月一日に本件土地を訴外会社から五〇〇〇万円で買い受け、同日譲渡証書(甲第一号証の一)を交わし、右代金を原告が当時訴外会社に対して有していた六〇〇〇万円くらいの債権に充当することとしたと供述するが、六〇〇〇万円もの大金を訴外会社に貸し付けたと述べながら、その内訳を特定して具体的に述べることができないのであり、右債権に本件土地売買代金を充当したというが、同供述によれば、買い受けに際しては現地に行くなどして本件土地の価値を確認することなく、買い受け後にはじめて現地を見に行き、本件土地がさほど値打ちのないものだと知つたというのである。また、買い受け時には右のように本件土地の評価は定たでなかつたのに、前記六〇〇〇万円の債権に見合う訴外会社の借用証書や約束手形全部を、右訴外会社に返還してしまつたというのである。

以上のように原告代表者の供述には不合理な点が多く、甲第一〇号証の一に関する前記認定に照らしてもこれを措信しがたく、証人中井規子(第一回)の本件土地売却についての供述も前記認定に照らせば措信できず、外に原告が昭和五三年四月一日に訴外会社から本件土地を買い受けたとの事実を認めるに足る証拠はない。

よつて、原告の本訴請求は、その余の点を判断するまでもなく理由がない。

第三参加人有吉の請求について

一  訴外会社が、昭和四七年一二月八日被告からその所有にかかる本件土地を買い受けたこと、登記簿上は依然として被告所有名義になつていることは、いずれも原告および被告、参加人有吉間で争いがない。

二  証人中井規子(第一回)の証言、参加人有吉本人尋問の結果、いずれも右証言および尋問の結果によつて真正に成立したと認められる丙第三ないし第五、第七第八号証、いずれも参加人有吉と原、被告間で成立に争いのない丙第一、第二号証、いずれも参加人有吉本人尋問の結果により真正に成立したと認められる丙第九、第一〇号証によると、次の事実が認められる。

(一)  訴外会社は不動産仲介業を目的とするものであるところ、訴外会社は、昭和四八年九月ごろ参加人有吉に土地を仲介し、その際同参加人から代金の八〇〇万円を受領したが、結局目的物件を同参加人に移転できず、右売買契約は解除され、訴外会社は同参加人に八〇〇万円の返還債務を負担するに至つた。

(二)  訴外会社は、昭和四九年一月一〇日、参加人有吉から三五〇万円借り受けるとともに、(一)の八〇〇万円の返還債務および右貸金債務ならびにこれらに対する昭和五〇年三月一五日までの金利一五〇万円を消費貸借の目的とし、このの返済期を昭和五〇年三月一五日とすることを約した。

(三)  そして、訴外会社は、前記昭和四九年一月一〇日参加人有吉に対して、(二)の債務の担保として、訴外会社所有の本件土地を、昭和五〇年三月一五日までに右一三〇〇万円の債務を弁済した場合は返してもらうとの約定で譲渡し、訴外会社が被告から本件土地を買い受けた際の売買契約書(丙第一号証)、領収証(丙第二号証)を交付した。  (四) ところが、訴外会社は、昭和五〇年三月一五日になつても前記債務を弁済することができなかつたので、同日、訴外会社と参加人有吉は、訴外会社は本件土地を参加人有吉に譲渡したことを再確認し、権利譲渡再確認証(丙第四号証)を交わし、訴外会社は参加人有吉に、これより先の昭和四九年九月二五日に被告と訴外会社間で交わされていた、本件土地の処分方法等についての約定を記載した「覚え書」と題する書面の写(丙第五号証)を交付した。

以上の事実が認められ、右認定を覆えすに足る証拠はない。

したがつて、参加人有吉は、訴外会社から本件土地所有権を取得したことが認められる。

三  本件土地についての登記名義が被告にあることは前記のとおり当事者間に争いのないところであるが、前記認定事実をを前提とすれば、被告は前記譲渡担保契約の当事者ではなく訴外会社の前主にすぎないから、参加人有吉の被告に対する所有権移転登記請求は、いわゆる中間省略登記を求めていることになる。

思うに、登記は実体的な権利変動の過程を反映すべきものであるから、中間省略登記を請求する権利は、当然には発生しないと解すべきであるが、中間省略登記をするについて登記名義人および中間者の同意がある場合には、直接現登記名義人に対する登記請求を認めるのが相当である。

そこで、本件において中間省略登記について、登記名義人(被告)および中間者(訴外会社)の同意があるかについてみるに、参加人有吉と原、被告との間で原本の存在およびその成立について争いのない丙第五号証、証人中井規子(第一回)、同任田静司、同芝田勇の各証言、参加人米田本人尋問の結果を総合すると、当時訴外会社の所有であつた本件土地(ただし、その登記簿上の所有者名義は被告であつた。)は、袋地で侵入路がなく、これと隣接する被告所有の六筆の土地(以下「隣接土地」という。)と切り離しては取引の対象とすることが難しい土地であつたため、訴外会社と被告は、昭和四九年九月二五日本件土地および隣接土地に関し次のような合意をしたことが認められる。

(一)  被告および訴外会社は、本件土地および隣接土地を協力して造成すること。  (二) 被告および訴外会社は、本件土地を隣接土地と一括して売却すること。

(三)  売却には本件土地も含めて被告があたること。

(四)  一括売却する場合、本件土地については中間省略により直接被告から第三者に移転登記すること。

右認定の事実によれば、たしかに被告と訴外会社との間には中間省略登記の合意があつたとは認められるものの、これはあくまで、被告が本件土地と隣接土地とを一括して売却したときに中間省略登記によるというものであつて、前記認定のように訴外会社が本件土地のみを隣接土地から切り離して処分したような場合についての合意でないといわざるをえない。

また外に本件ような中間省略登記に被告および訴外会社が同意していると認めるに足る証拠はない。

四  したがつて、参加人有吉と原、被告間で、同参加人が本件土地について所有権を有することの確認を求める同参加人の請求は理由があるが、同参加人の被告に対する所有権移転登記手続請求については理由がない。

第四参加人米田の請求について

本件土地が訴外会社の所有であつたことは、参加人米田と原、被告との間で争いがない。

原告は、昭和五三年四月一日訴外会社から本件土地を買い受けたと主張するが、前記第二のとおり、右事実は認められない。また、前記第二のとおり、本件土地は被告から訴外会社に譲渡されたものであるから、被告の所有に属するものでもない。

したがつて、参加人米田の、同参加人と原告との間で、訴外会社を売主、原告を買主とする本件土地についての昭和五三年四月一日付売買契約にもとづく法律関係が存在しないことの確認を求める請求、および同参加人と被告との間で、被告が本件土地につき所有権を有しないことの確認を求める請求はいずれも理由がある。

第五結論

よつて、原告の本訴請求および参加人有吉の所有権移転登記手続請求をいずれも棄却し、参加人有吉の本件土地についての所有権確認請求、ならびに参加人米田の原告に対する、原告と訴外会社間の本件土地についての昭和五三年四月一日付売買契約を原因とする法律関係が存在しないことの確認を求める請求、および同参加人の被告に対する本件土地についての所有権不存在確認請求をいずれも認容することとし、訴訟費用の負担については民事訴訟法九四条、八九条を適用して、主文のとおりと判決する。

(裁判官 川口冨男 新井慶有 佐々木洋一)

(別紙) 物件目録〈省略〉

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